水産特区合同会社 他地区流用の背景

先月3月17日、本紙朝刊第一面に石巻・桃浦「かき他地区流用」との記事が目に止まった。東日本大震災の際、宮城県知事が創造的復興を掲げ水産特区を平成25年9月1日に桃浦かき生産者合同会社(合同会社)に漁業権を直接交付した。知事は「合同会社に卸売会社が参画することにより、製品企画や販路及び販売のノウハウを活用できる。」と述べていた。今になれば、そのノウハウとは解禁日破りや他産地流用だったのだろうか。また、先日の記者会見で平然と知事は「法令に違反が無ければ問題が無い。」と強弁している。

全国から注目を浴びている合同会社が、社会通念上許されない事件を起こすのか。平成14年4月4日付の全国紙に、仙台水産会長は「創業5年間の赤字経営は覚悟しているが、その後は黒字にする。」と述べている。私も経営者として吹けば飛ぶような零細企業を担っているが、初めから5年の赤字を覚悟しているとは、名経営者としては甘い考えではないかと思う。月々の試算表で本業の利益が赤か黒かである。4億円もの公的資金を付与されている合同会社に甘えは許されないはずである。

今回の他産地流用と前回の解禁日破りを垣間見たい。通常、食品会社は大手メーカーでなければ大手スーパーとの直接取引は、難しい。大手スーパーの取引口座が増えて煩雑になるからである。従って市場卸や食品問屋、あるいはベンダーを通しての製品納入となる。取引には、製品の安定供給を求められ、欠品すればペナルティーとなりスーパー側の利益逸失分が食品メーカーに求められる。だが、生鮮品を海に依存している水産加工会社は、台風や低気圧の時化により原料の安定確保が難しい。加えて、10年前と比べカキは衛生検査の精度が高まりノロウィルスや大腸菌による影響で生産が厳しく制限され、安定した原料確保と販売が難しくなっている。はっきり言えば「美味しく安全なものには限りがある。」ということである。通常、製品が定番商品として店の棚に並ぶのには短くて1ヶ月を要する。チラシに載る特売商品でも企画に20日は掛かる。裏を返せば、今日に解禁日破りを決める訳は無く、他産地流用にしても事前の準備無くして原料調達が出来ない。他産地流用は内部告発により発覚したと報道されている。企業にコンプライアンスが求められる時世であり、経営者に高い倫理観と道徳観が求められている。

4年前に宮城海区漁業調整委員会において、漁業権を合同会社に直接付与する審議に於いて、合同会社に参画する仙台水産の適格性について議論が交され紛糾した。過半数の委員が不適格としたが議決三分の二条項によって、適格性を容認する結果となった。なぜ適格性について紛糾したかを省みると、合同会社の経営主体が漁業者か仙台水産かが問われたのである。今になれば合同会社は仙台水産のグループ会社に属し、先にも述べた量販店等の販路については仙台水産が主導していることが伺える。海区委員会に、合同会社の決算について県当局から赤字決算であることが報告されている。問題の背景には、経営不振が招いた焦りからの、解禁日破りであり他地区産流用だったのであろうか。知事は記者会見で、来年は漁業権の切替えであり、水産特区制度について「もう少し様子を見て制度を存続させるかどうか検証したい」と述べている。